雪の降るまち2 じぇる
うつむいた進の前に、ユキが近づいた。
真っ赤な顔の進の頬にそっと手を添えた。

ひんやりとした感触と涼やかな香り。

進が顔を上げると、彼女が何かつぶやいた。

すぅーーと 進の意識が遠のいた。

「ごめんね、ススム。ユキが、ずぅっと覚えてる。」
ユキはマフラーを持ち、ポンポンとたたく。

 ぽろん。 涙が落ちる。

「もう、会えないからススムは覚えてなくていいの。」
右手に輪っか。進の首にゆっくりと巻いた。端を輪にとおし、ほら出来上がり。

 ぽろん。 ぽろん。

ユキが拾い上げたショートケーキの箱が、見る間に白くなり、凍りつき、シャラシャラと崩れていく。

ススムのくれた、真っ赤なイチゴ

「おかしいなぁ。ユキは歓喜の子なのに」 ぽろぽろ。ぱたぱた。涙が止まらない。
「あの日のススムの笑顔を、また見られたのに。」  ぱたぱた。 ぽたぽた。

大きかったユキに、初めて会った時のユキの姿が重なる
「ススム ・・・     」  しゅるん。 ユキが消えた。

公園の外灯の下に、進だけが残された。











「ユキちゃん」 「ユキちゃん」 「ユキちゃん、どうしたの?」
雲に戻ってから、ユキはずっと泣き続けていた。
泣いて、泣いて、ユキはすっかり小さくなった。

泣くことは、ユキたちにはありえないことだから、小さなユキ達のほとんどの子は遠くで見ていた。
二人の小さなユキちゃんが傍にいた。

大きなユキがやってきた。
「みんなのところにいっておいで」
「ユキちゃん、どうしたの」「どうしたの」
にっこり笑って大きなユキは言った。
「大丈夫だから。ユキちゃんは、これから還るの。」
「還るの?」
「そう。お水になって還ってくるの。」
「じゃあ、また一緒なの」「一緒なの」 大きなユキはうなずいた。
「寒気がくるわよ。みんなのところにいってらっしゃい」
「はーーい」 楽しげなユキの声が遠ざかる。

もう一人の大きなユキの声が響く。
「さぁ、大きな寒気がきますよ」
「はーーい」
「さぁ、今夜は世界を真っ白にしますよ」
「はーーい」

「世界を真っ白にして、たった一つの大切を見つけましょう」
そう言って、小さくなったユキをそっと抱き寄せた。
「さぁ、彼に融かしてもらいましょう。」
もう、ユキは返事をすることもできなかった。


「寒気がきたわよ!!」
「わーーーい!!」
ユキちゃん達は鈴のような鳴り物を、それぞれの手に持っていた。
シャラ シャラ シャシャシャ
「寒気を歓喜に」 シャンシャン
「世界を真っ白に」 シャン シャン シャン
「たった一つの大切を見つけましょう」 シャン シャン シャン
「見つけましょう~」 ユキの大合唱だ。
鈴の音色にあわせて、はらはらと粉雪が舞い出した。

鈴の音が鳴り響く
「ユキちゃん、いってらっしゃい」
大きなユキが、ユキを放り投げた。

  パン  ちいさな音がして、弾けた。

雲の下は雪。 たくさんの雪。
「ユキちゃ~ん。いってらっしゃ~い」かわいいユキ達の声が響く。

真っ白な雪がふる。  ふる。  ふる。

雲の下は、もう真っ白だ。地上の明かりすら見えない。
ユキ達の歓声が響く。

「ユキちゃん、あなたの還りたいところにお帰りなさい。」

大きなユキの、つぶやきも雪の中へ消えて行った。



「うっそだろ、何してんだ。」
もうすぐ日付もかわるのに、いつまでも戻らない弟を、ふらっと探しにでてみた守はびっくりだ。
なんで、あいつ公園にいるんだよ。  しかも・・・寝てる。

「おい!進!起きろ!」
「風邪ひくぞ!!」
もそもそと進が動く。
「・・・ぁあ、兄さんだ」 ぼんやりと答える。
「何やってんだか。」
しみじみと、弟を見る。服着てる。おかしくない。 ん!? いつものぐるぐるじゃない。
「誰か、いたのか?」
「誰って?」
進はぼんやりと公園を眺めている。

ビュウウッ    強い風だ。

守は思わず目を閉じた。

そっと、目を開けると・・・
「う・・わぁ」 思わず声がもれる。
真っ白だ。なにもかもが、一瞬で真っ白だ。 耳が痛くなる。

すごいなあ。 粉雪が降っている。 守は妙に感心した。
雪まみれの進をみると、泣いている。
「進、どうした。」
「なにが?」 進は、けろりと答える。
「目に雪でも入ったか?」
「別に痛くない。・・・あぁ、なんでだろう。わかんないな。」
涙を流しながら、どこか進はぼんやりしている。
「帰るか」 守が言う。
「そうだね。帰ろうか」 

二人して薄く積もった雪を踏みしめる。

「そうだ、ケーキはどうした。」
「バターケーキのブシュドノエル。できたてだよ。」
「そうか。紅茶は調達したぞ。それに、晩飯もそれなりに準備した。」
「有りがたいことでございます。神様。仏様。守さま。」
「よしよし。」 
「俺は今日だけ、楽ができます。」
「なんだそりゃ。」 守が進を小突く。
 
玄関を開ける。暖かい空気がふわっと押し寄せる。
「しまった。つけっぱだったか。」
そう言いながら、守は手を伸ばし  ぽん  傘のさきっちょに触る。
そんな兄の仕草をみながら、進はドアを閉めた。
体中についた雪は、どんどん融けてゆく。湯気まで見えそうだ。
かまちを上がり、いつものように傘をみる。
  ・・・雪がみたい。
たたきに飛び降りて、ドアを開ける。
何かが さぁっ と外へ出ていく。
夢のような真っ白の世界。いつもの街並みは、何処かへいってしまったようだった。
「・・・忘れないよ」   言葉がこぼれる。  ん?なんのことだろう?
 
しゅん。  最後の雪が消えていった。

「おーーい。はやく来いよ。」

守の声に返事もしないで、進は降り積もる雪のむこうの何かを、いつまでもいつまでも、じっと見つめていた。


                            ~おわり~




******

雨から雪へと変わりましたが、じぇるさんのほんわかファンタジックな世界は変わりませんよv
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